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札幌高等裁判所 昭和30年(ネ)113号 判決 1956年4月18日

控訴人 原告 青木太七

訴訟代理人 岩沢誠 外一名

被控訴人 被告 若佐村議会

代表者議長 片岡丑治

訴訟代理人 小寺叔輔

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、原判決を取消す、昭和二七年六月一九日被控訴人が控訴人に対して行つた村長不信任決議は無効であることを確認する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

控訴代理人は請求の原因として、控訴人は昭和二七年四月二六日より北海道常呂郡若佐村村長であつたが、同年五月一六日若佐村議会は控訴人の村長不信任決議をなしたため控訴人は即時同議会の解散を命じ、同年六月八日若佐村村会議員の選挙が行われ、翌九日新議員二二名の当選が確定し、ここに解散後新たな被控訴議会が成立した、しかるところ同年同月一〇日新議員訴外佐藤幸吉外一五名は連署をもつて若佐村議会招集請求書を控訴人に提出し臨時議会の招集を請求した、たまたま控訴人は同年六月一六日より同月一八日まで同村村有林不正伐採事件現地調査のため、さらに同月一九日は網走支庁及び網走開発建設部に事務打合せのため夫々出張して不在だつたが、同村助役訴外出倉定夫は控訴人の出張不在を奇貨とし村長たる控訴人の意に反し控訴人名義を冒用して同年六月一六日、被控訴議会の昭和二七年度第五回臨時村議会を同年六月一九日に招集する旨の告示をなし、これに基いて同月一九日被控訴議会が開会され控訴人の不在不知の間に議案第一号として村長不信任決議案が上呈可決された、かように右第五回臨時村議会は村長たる控訴人不知の間に、その意に反し、助役訴外出倉定夫が村長名を冒用して招集したものであるから、地方自治法第一〇一条に違反して無効であり、したがつて右招集に基いて開会され議決された村長不信任決議も当然無効である、されば控訴人は右不信任決議によつて村長たる資格を喪失せず、地方自治法第一四〇条による四年の任期の満了する昭和三一年四月二五日までは若佐村村長の地位にあるものであるから被控訴議会に対し前記村長不信任決議の無効であることの確認を求めるため本訴請求に及ぶと陳述し、被控訴代理人の主張に対し、昭和二七年八月五日施行された若佐村村長選挙の結果、訴外桐山修が当選したことは認める、控訴人が臨時村議会招集請求書を示されたこと、及び助役から村議会招集を告示した旨電話で通知されたことは否認すると述べた。

被控訴代理人は、本案前の抗弁として、昭和二七年八月五日若佐村村長の選挙が行われ訴外桐山修が新たに村長に当選確定したので控訴人の本訴請求はその法律上の利益を失うに至つたものであると述べ、本案につき、請求原因事実中昭和二七年度第五回臨時村議会が村長たる控訴人不知の間に、その意に反し、助役訴外出倉定夫において村長名を冒用して招集したものであるから無効であり、したがつて村長不信任決議も当然無効であるとの点を否認する、その余の事実は争わない、助役出倉定夫は昭和二七年六月一〇日新議員十六名から村議会招集の請求に接したので、村役場附近の理髪店で整髪中の控訴人に対し、使者を通じて右村議会招集請求書を示し即時村役場に登庁せられたき旨を要請したが、控訴人は右要請を無視して登庁せず、その後も村役場に出勤しなかつた、そこで同助役は村議会招集の請求を尊重し、村長を補佐する趣旨において同月一六日村長名をもつて村議会の招集を告示し、村長にはその旨を電話で通知し、これに基いて臨時議会が招集せられたものである、以上のような事情と経過の下に助役が村長名をもつて村議会を招集することは地方自治法第一六七条にいう補佐に該当し適法有効であると述べた。

証拠として、控訴代理人は甲第一乃至第五号証、第六号証の一、二、第七乃至第一〇号証を提出し、原審証人渡部音春、影山金男、当審証人佐野清作、渡部音春、影山金男、山本久介の各証言、控訴人青木太七の原審及び当審における各本人尋問の結果を援用し、乙第四号証の一、二、三、第九号証の四、五は不知、その他の乙号各証の成立を認めると述べ、被控訴代理人は乙第一、二、三号証、第四号証の一、二、三、第五、六号証、第七号証の一、二、第八号証、第九号証の一乃至五を提出し、原審証人出倉定夫、大島満、福島十宣知、片岡丑治、佐藤幸吉、当審証人出倉定夫、大島満、山崎正の各証言を援用し、甲第六号証の一、二、第七、八号証は不知、その他の甲号各証は成立を認める、甲第一乃至第五号証を援用すると述べた。

理由

按ずるに、村長不信任決議の無効確認を求める訴訟の目的たる権利または利益は、村長たる地位であり、かかる請求をなす趣旨は村長たる地位を回復するにあると解すべきであるから、村長たる地位を失つてしまつた後においては、不信任決議の無効確認によつて回復すべき地位がなく、不信任決議の無効確認を求める法律上の利益もまた失われたものというべきである、而して村長不信任決議があつた後に適法に村長の選挙が行われ、新村長の当選が確定すれば、右選挙の日から新村長が村長たる地位に就く結果、従前の村長は不信任決議の効力如何にかかわらず確定的に村長たる地位を失うにいたるものと解するを相当とする。したがつて適法に村長選挙が行われ新村長が当選確定した後は、従前の村長は村長不信任決議の無効確認を求める法律上の利益がないものといわなければならない。

控訴人は本訴において昭和二七年六月一九日被控訴人がなした村長不信任決議の無効確認を求めるものであるが、職権をもつて調査するに、昭和二七年八月五日若佐村村長の選挙が行われ、訴外桐山修が村長に当選確定したので、現在においては、控訴人の本訴請求はその法律上の利益を失うにいたつたものというべく棄却を免れない。

よつて爾余の点についての判断を省略し、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 猪股薫 裁判官 臼居直道 裁判官 安久津武人)

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